「君、コンビニ行ってくるね」
がそう言って出て行ってから15分。
何か嫌な予感がして窓の外を見ると、雲行きが怪しくなっていた。
そう言えば今日は午後から雨だって言ってた気がする。誰って、が。
(…あいつ、傘持ってかなかったよな)
天気知ってる意味ねぇじゃんと、浮かんだ得意げな顔を思い浮かべて笑う。
俺はソファにあった上着を掴んで、電気を消して、玄関に向かった。
「あー…あーあー」
俺は思わず声を上げた。雨雲はすっかりさっきまでの青空を覆ってしまっている。
これは早く迎えに行った方がいいと判断して、俺は小走りでエレベーターの所まで行ってボタンを押した。
でもその押した瞬間に(もっと早く気づけばよかったんだ)、
頭の中で施錠を咎めるの声が響いて、慌てて鍵を閉めに行く。
ガチャンと閉めた時にエレベーターが開く気配がして急いで走ったけど、あと少しの所で追いつかなかった。
「…もう階段で行こ…」
俺は背後の階段に向き直って、また小走りで高めの段を下って行った。
コンビニは歩いて3分程度の所にある。
結局走ったのは最初の10秒だけで、それからは普通に歩いていた。
そんな風に歩き始めて2分ほど。
見上げた空からは今にも雨が落ちてきそうで、そろそろまた走ろうかなあと思っていた矢先だった。
「君?」
「あ」
空から視線を地上に戻すと、コンビニ袋をさげたが立っていた。
俺が右手を挙げると、嬉しそうな顔でとことこと歩いてくる。俺は素直に、可愛いと思った。
「え、なんで?さみしかったの?」
「ちげえよ、迎えにきたの」
「やっぱりそうなんじゃん」
「ちげーって、雨降りそうだったからってだけ」
「君、傘もってないじゃん」
「…あ」
手ぶらの両手をじっと見つめる俺を見て、が思い切り噴出した。うわ。何だコレ、俺すんげー恥ずかしい。
それでもあんまりが楽しそうだったから、俺もつられて笑ってしまった。
「やっぱり寂しかっただけなんじゃん」
「はいはい、そうですね」
「拗ねないでよ」
ふふっとが笑ったら、ぽつりと鼻先に雨粒。
降ってきちゃったなと俺が人ごとのように呟くと、がコンビニの袋からビニール傘を出してきた。
「あーあー買ってるし」
「だって私、午後からは雨だって言ったよ」
「…ホント何しに来たんだろうな、俺」
「会いに来たんでしょ、私に」
「だからちげーって!」
楽しそうなが持っていたビニール傘を「俺が持つ」と奪って歩き出すと、が素直に隣にやって来た。
「ねー君」
「なに」
「会いたかったよね」
「…ちがうっつーのに」
ぼやく様に言ってから、ごきげんに歌いだしたの手をそっと握った。
その瞬間、やっぱり会いたかっただけかもしれないと思ったけど、絶対に言ってやんない。
「君」
「なんだよ」
「今度は一緒に行こうね」
「…そうするわ」
やっぱり寂しかったって言ってやろうかな、なんて、少しでも思い始めている自分が悔しい。
俺は歩くスピードをちょっとだけ、上げてやった。
ラララアンブレラ
(傘の下に、ご機嫌な君の歌声が響く)