恋人に好きだって言って、返してほしいって思うのは、我侭なんかじゃないはず。
「くん」
「ん?あ、おい」
読んでいた本を奪い取られたくんが、何すんだよって顔で私を見る。むすっとしたほっぺたが、何だかかわいい。
障害のなくなった距離にぎゅうと抱きつくけど、この天邪鬼な恋人はなかなか抱き締め返してくれたりなんかしない。
それどころか、何やらぶつぶつ言いながら、私の首根っこを掴んで引き剥がそうとする。
「なに、もう。俺読んでただろ」
「かまって?」
「よしよし」
「……」
適当に棒読みで頭を撫でられる。嬉しいのに素直に喜びたくなくなるくんの態度に、いつもの事ながら悔しくなった。
「くん、好きだよ」
「そっか」
「大好き」
「うんうん」
「くんは?」
「同じ」
「……」
私が欲しい言葉もして欲しいことも全部知ってるくせに、彼が本当にそれを私にくれるなんて、10回のうち1回あるかないか。
「大好き」って言ってそのまま素直に「大好き」が返ってきた事なんて、一体何回あっただろう。
やまびこみたいに、そっくりそのまま返してくれるだけでいいのに。
(……そうだ)
「くん」
「ん?」
「真似して」
「ええ?」
「私が何か言うから、まねっこして」
「何、急に」
「いいから」
「おまえなあ…」
くんが構ってくれないからこんな事思いつくんだからね。
どうしたって、その口から言わせてみせるんだから!
何て、心の中で悪態をつきながらくんと向かい合わせ。
でもやっぱり、何だかんだで笑いながら私を見つめてくれているくんが、優しくて好き。
「じゃあ、いくよ」
「じゃあいくよ」
「…」
「……」
「……ちょっと」
「ちょっと」
「まだだよっ」
「まだだよ」
「………」
「…………」
何だか、思い通りにいってない。
次は何?って涼しい顔で私に問うくんに、うぅ、と言葉が詰まる。
途端に、涼しかったくんの顔が、ぶふっと言う声と一緒にくしゃっと崩れた。
「え、な、なっ……」
「は可愛いな」
「へっ…」
「好きだよ?」
「…………」
(……くそぉ…)
して欲しい事も言って欲しい事もぜんぶ見透かしたみたいなくんが、私の髪を撫でて笑った。
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(くやしいから、まねっこしてあげない!)